映画「ラストマイル」は、2024年8月23日に公開された日本のサスペンス映画です。監督は塚原あゆ子、脚本は野木亜紀子が担当し、テレビドラマ「アンナチュラル」「MIU404」と同じ世界観で展開される物語となっています。
物流業界最大のイベント「ブラックフライデー」の前夜、世界的なショッピングサイト「デイリーファスト」から配送された段ボール箱が爆発する事件が発生します。この事件をきっかけに、日本中を震撼させる連続爆破事件へと発展していく様子が描かれます。
主人公の舟渡エレナ(満島ひかり)は、デイリーファストの関東センター長として着任したばかり。チームマネージャーの梨本孔(岡田将生)とともに、事態の収拾に奔走します。しかし、事件の背後には深刻な社会問題が潜んでいました。
爆弾テロ事件の犯人は、元デイリーファスト社員の筧まりか(仁村紗和)でした。彼女の恋人だった山崎佑が、過酷な労働環境が原因で自殺未遂を図ったことが動機となっています。
筧まりかは、物流代行サービスを利用して倉庫内に爆弾を仕掛けるという巧妙な手口を使用しました。デイリーファストの内部事情に詳しい彼女だからこそ可能だった犯行でした。
エレナと孔は、事件の真相に迫るにつれ、会社の利益追求と従業員の人権のバランスについて深く考えさせられます。この葛藤が、物語に深みを与えている要素の一つです。
本作では、物流業界の厳しい労働環境や、過度な効率化がもたらす問題点が赤裸々に描かれています。特に注目すべきは、「ラストワンマイル」と呼ばれる、最終配送地点までの配送プロセスです。
現実の物流業界でも、2024年4月から施行される「物流業界の2024年問題」が大きな課題となっています。これは、ドライバーの年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることで、人手不足がさらに深刻化する可能性があるというものです。
映画では、この問題を反映するかのように、配送員の過酷な労働環境や、会社側の無理な要求が描かれています。特に印象的なのは、火野正平演じるベテラン配送員の姿です。彼の丁寧な仕事ぶりが、最後の爆弾の被害を最小限に抑えるという展開は、人間味のある仕事の重要性を示唆しています。
物流業界の実態についてより詳しく知りたい方は、以下のリンクが参考になります。
国土交通省:トラック運送業の現状・課題について
映画「ラストマイル」の主題歌「がらくた」は、米津玄師が担当しています。米津玄師は、「アンナチュラル」「MIU404」の主題歌も手がけており、この3作品で一つの世界観を音楽面でも表現しています。
「がらくた」という曲名は、物流業界で扱われる商品や、社会から見捨てられた人々を象徴しているようにも感じられます。歌詞の中に登場する「誰かの願いが詰まったがらくた」という一節は、私たちが何気なく注文する商品の裏側にある人々の思いを想起させます。
映画の中で、この曲が流れるタイミングも絶妙です。特に、クライマックスシーンでの使用は、観客の感情を高める効果があります。
音楽が映画に与える影響について、以下のYouTube動画が参考になります。
映画音楽の効果を解説する動画
本作の魅力の一つは、豪華キャストの熱演です。主演の満島ひかり演じる舟渡エレナは、冷静沈着なセンター長としての顔と、過去のトラウマを抱える人間としての顔を見事に演じ分けています。
岡田将生演じる梨本孔は、エレナの良き理解者であり、時に対立する存在として物語に深みを与えています。二人の関係性の変化が、事件の進展とともに描かれていくのも見どころの一つです。
また、「アンナチュラル」「MIU404」のキャストも多数出演しており、ファンにとっては嬉しい仕掛けとなっています。石原さとみ演じる三澄ミコト、綾野剛演じる伊吹藍、星野源演じる志摩一未らの活躍も、物語に厚みを持たせています。
本作は、単なるサスペンス映画にとどまらず、現代社会が抱える様々な問題を提起しています。特に注目すべきは以下の点です:
映画の中で、エレナが「死んでもベルトコンベアを止めるな」という会社の方針に疑問を持ち始める場面は、特に印象的です。この瞬間から、彼女の内面的な成長が始まり、最終的には会社の方針に反してでも正しいことを選択する姿勢へと変化していきます。
また、筧まりかの犯行動機も、現代社会の歪みを象徴しています。彼女の行動は決して正当化されるものではありませんが、その背景にある社会問題には目を向ける必要があります。
映画は、私たちに「便利さの裏側にある犠牲」について考えさせます。ワンクリックで商品が届く便利さの裏で、誰かが過酷な労働を強いられているかもしれない。そんな現実を、私たちはどう受け止め、どう行動すべきなのか。本作は、そんな問いを投げかけているのです。
現代社会の労働問題について、より深く理解したい方は以下のリンクが参考になります。
厚生労働省:労働基準法等の概要
映画「ラストマイル」は、エンターテインメントとしての面白さと、社会派作品としての深さを兼ね備えた作品です。観終わった後も長く心に残り、現代社会について考えさせられる、そんな珠玉の一作と言えるでしょう。